気分の落ち込みが続いたり、何事にも意欲や喜びを持てなかったりといった精神症状とともに、眠れない、食欲がない、疲れやすいなどの身体症状が現れ、日常生活に大きな支障が生じている場合、うつ病の可能性があります。
日本では、100人に約6人が生涯のうちにうつ病を経験しているという調査結果があります。
社会生活を送る上で、悲しいことや不快なことを完全に避けることは出来ないため、誰もがうつ病になる可能性があります。
うつ病にまた、女性の方が男性よりも1.6倍くらい多いことが知られています。
女性では、ライフステージに応じて、妊娠や出産、更年期と関連の深いうつ状態やうつ病などに注意が必要となります。
目次
うつ病の原因は?
うつ病の3つの原因
うつ病の発症の原因は、まだ十分に解明されていませんが、現在わかっている原因として、「心理的なストレス」、「脳内の変化」、「なりやすい体質」の3つがあります。
これら3つの原因が重なって、うつ病を引き起こしていると考えられます。
うつ病は心の病と思われがちですが、じつは脳の病気でもあります。
心理的なストレスとは、過労や対人関係のトラブル、離婚や死別といった生活上の問題が原因となるストレスですが、そうした心理的なストレスがきっかけとなり、そのストレスで脳の働きのバランスが崩れることで、うつ病が発症すると考えられています。
脳にはたくさんの神経細胞があり、さまざまな情報を伝達していますが、その働きで「感情」が生まれます。
最近の研究では、ストレスを受けることで脳の一部の神経細胞の形に変化が生じ、それによって感情や考え方にゆがみが起きるのではないかと指摘されています。
うつ病の背景
また、うつ病の背景には、精神的ストレスが指摘されることが多いですが、辛い体験や悲しい出来事のみならず、結婚や進学、就職、引越しなどといった嬉しい出来事の後にも発症することがあります。
なお、体の病気や内科治療薬が原因となってうつ状態が生じることもあるので注意が必要です。
うつ病の症状は?
うつ病のさまざまな症状
うつ病では、様々な心の不調や体の不調が現れます。
体の不調としては、睡眠障害や疲労感・倦怠(けんたい)感、首・肩のこり、頭が重い、頭痛、食欲不振、動悸、息切れ、めまいなどがあります。
心の不調としては、意欲・興味の減退、仕事能力の低下、抑うつ気分、不安・取り越し苦労などがあります。
すべての症状が発現する訳ではなく、症状は人それぞれで、程度も異なります。
うつ病の兆候
うつ病を診断するときに特に重要なのが、
- 憂うつな気分
- 何に対しても興味が持てない
という2つの症状です。
この2つのうち、どちらかひとつでも、ほとんど一日中、ほとんど毎日、2週間以上続いている場合、うつ病の可能性が高いと考えます。
また、「うつ病」に至らず「うつ状態」であっても、物事の捉え方が否定的になります。
そのため、自分がダメな人間だと感じてしまうこともあります。
そして、普段なら乗り越えられる問題も、実際よりもつらく感じてしまうという悪循環が起きてしまいます。
イライラしたり、焦る気持ちが出たりすることもあります。
重症になると「死んでしまいたいほどの辛い気持ち」が現れることもあります。
悪循環に陥る前に、うつ病かもしれない、と思ったら、早めに専門家に相談することが大切です。
何科を受診すればいいの?
総合病院の精神科や心療内科、精神科のクリニックなど
うつ病かなと思ったら、総合病院の精神科や心療内科、精神科のクリニックなどに相談しましょう。
早めに専門家に相談し、しっかりと休養をとることが大切です。
うつ病に似た症状を起こす病気は?
うつ病と他の病気の違い
うつ病に似た症状を起こす病気は、精神疾患としては、「不安症」や「パーソナリティ障害」、「適応障害」などがあります。
また、うつ病との鑑別が必要な双極性障害(躁うつ病)もあります。
うつ病ではうつ状態だけがみられますが、双極性障害はうつ状態と躁状態(軽躁状態)を繰り返す病気です。
うつ病と双極性障害とでは治療法が大きく異なりますので専門家による判断が必要です。
うつ病と認知症
また、脳や体の病気で、うつ症状が現れることがあります。
最近、うつ病と間違われることが多くなっているのが「認知症」です。
うつ病は認知症に移行しやすいこともわかっているため、高齢者のうつ病の治療は大切です。
うつ病と脳梗塞
脳の血管が詰まって「脳梗塞」になると、脳の働きが悪くなるため、うつ症状がみられることがあります。
その場合、症状が急に現れるのが特徴で、言葉が出にくい、物の見え方がおかしいといった脳梗塞独特の症状がないかをチェックする必要があります。
また、「甲状腺の病気」などでもうつ病に似た症状が出ることがあります。
病気以外が原因の「うつ症状」は?
似た症状と見分けるポイント
病気でなくても、アルコールなどの依存性物質やインターフェロン(ウイルス性肝炎の治療薬)などの薬剤が、うつ病に似た症状を起こすことがあります。
うつ病かどうかを見分けるには、アルコール依存症になるほどの量の飲酒をしていないか、副作用でうつ症状が出るような薬を服用していないかを確認します。
うつ病を疑って受診した場合、問診では服用している薬も忘れずに伝えることが大切です。
うつ病が遺伝する可能性は?
うつ病の発症に遺伝子が関わっているかどうかは、はっきりと分かっていませんが、親やきょうだいにうつ病になったことがある人がいると発症率が高いことがわかっています。
そのため、うつ病になりやすい体質があると考えられています。
周囲の人がうつ病のサインに気付くには?
うつ病は本人が気づきにくい病気です。
うつ病に関する知識がないと、症状が現れていてもうつ病を認識できないことがあります。
また、重症になると、脳の働きが低下し、病気であることに気付きにくくなります。
重症になる前に、周囲の人が気づくことが大切です。
うつ病のさまざまなサイン
周りの人が気づきたいうつ病のサインとしては、
- 表情が暗い
- 口数が少なくなる
- イライラしている
- 自分を責めてばかりいる
- 朝や休日明けに調子が悪い
- 遅刻、欠勤が増える
- だるさを訴える
- 落ち着かない
- 飲酒量が増える
- 涙もろくなった
- 反応が遅い
- 身辺整理をする
などが考えられます。
本人に直接伝えづらい場合には、家族や親しい友人、その人が信頼している人から伝えてもらってもよいでしょう。
職場であれば産業医に相談できます。
うつ病の治療法は?
まずは心身の休養を
治療をはじめる前に、まず、心身の休養をとれるように環境を整えてみましょう。
ストレスの原因が職場や学校に思い当たる場合は、職場や学校から離れて自宅で過ごすことで、症状が大きく軽減することがあります。
ストレスから離れた環境で過ごすことは、その後の再発予防にも重要です。
また、散歩などの軽い有酸素運動(運動療法)がうつ症状を軽減されることが知られています。
うつ病の治療の種類
うつ病の治療には、医薬品による治療(薬物療法)と、専門家との対話を通して進める治療(精神療法)があります。
薬物療法として、主に使われる治療薬は抗うつ薬で、すぐに効果が現れるわけではないので、継続して服用する必要があります。
自分の判断で薬の量を増やしたり減らしたり中断したりせず、主治医の指示に従い、焦らずに服薬を継続してください。
また、うつ病では様々な身体の症状も現れますので、その症状に応じた治療薬を併用することもあります。
精神療法とは、「医師が傾聴・共感する」「病気について患者さんに理解してもらう」「生活リズムを整える生活指導を行う」といった治療のことです。
入院の必要があるケース
薬の効果がどうしてもみられない場合に使われるのが、「通電療法(修正型電気けいれん療法)」です。全身麻酔で筋弛緩薬を併用して行うため、通常は入院しての治療となります。
また、秋から冬にかけて起こる季節性のうつ病には、朝に人工的な光を2時間ほど浴びる「光療法」が有効な場合があります。
その他、経頭蓋磁気刺激法などが用いられる場合もあります。
治療の不安や疑問があったら?
治療の不安や悩み、疑問を持ったら、主治医に相談しましょう。
何でも相談できる関係を主治医ともつことはうつ病治療の第一歩です。
場合によっては、セカンドオピニオンとしって、主治医以外の専門家の意見を聞くことも考えます。
複数の専門家の意見を聞くことが納得のいく治療につながることもあります。